届いたばかりのリングをルーペで覗いて、内側に見慣れない小さな凹みを見つけたとき——「これは傷なのか、それとも打痕なのか」と不安になる方は、じつは少なくありません。特に、ブシュロンのキャトルのような、表面の造形そのものが主役となる作品では、その戸惑いが強くなりがちです。
けれど、どうかご安心ください。その小さな刻印は、ほとんどの場合、傷でも打痕でもなく「本物である」ことの証—— ホールマークと呼ばれるものです。
この記事では、ホールマークとは何か、その意味と位置、そして傷との見分け方を、ジュエリーに長く寄り添っていただくための知識として整理してお伝えします。
ホールマークとは?ジュエリーに刻まれる"本物の証"

ホールマークとは、主に貴金属の品位、つまり金・プラチナ・銀などの純度を証明するために打たれる刻印のことです。広い意味では、メーカーの責任刻印やブランド刻印、シリアルナンバーなどとあわせて、ジュエリーの情報を示す小さな印として扱われることもあります。
ひと口にホールマークと言っても、そこに込められた情報は一つではありません。素材の純度を示すもの、誰が作ったかを示すもの、どこで検査を受けたかを示すもの。複数の刻印が組み合わさって、一つの作品の履歴書を形づくっています。
品位証明刻印(素材の純度を示す)
最も基本となるのが、素材の純度を示す「品位証明刻印」です。たとえば「750」は金の含有率が75.0%であることを、「950」はプラチナの含有率が95.0%であることを意味します。数字だけで示される場合もあれば、「K18」「Pt950」といったアルファベットつきの表記もあり、地域やブランドによって使い分けがあります。
この刻印があるということは、その素材が純度基準を満たしている前提で市場に流通していることを示します。ジュエリーの価値を根拠づける、静かで雄弁な数字です。
メゾンマーク/作者マーク(誰が作ったかの証)
品位証明と並んで重要なのが、メゾンマークと呼ばれる作者の刻印です。フランスでは「ポワンソン・ド・メートル」と呼ばれ、ひし形や多角形の枠のなかに、そのメゾン固有の記号が刻まれます。
ブランドのロゴそのものが刻まれることもあれば、国の制度に基づいて登録された抽象的な記号で表されることもあります。いずれにしても、その作品を「誰が責任をもって世に送り出したか」を示す署名のようなもの。シリアルナンバーと並んで、個体を特定する手がかりにもなります。
なぜ小さくて目立たない場所にあるのか
ホールマークは、リングの内側、ネックレスの留め具の裏、ブレスレットのクラスプの内面—— 身につけたときに視界に入らない場所に、そっと潜むように刻まれています。
なぜ、そこまで目立たせないのか。理由はシンプルで、ジュエリーの意匠そのものを邪魔しないためです。作品としての完成された佇まいを損なわず、必要なときにはすぐ確認できる。ホールマークは、デザインと証明を両立させるための、いわば慎ましい約束ごとなのです。
日本と海外のホールマーク制度
ホールマーク制度は国によって歴史も厳しさも異なります。海外から届いたジュエリーに、日本では見慣れない刻印があって驚かれる方もいますが、それはその国の制度に従って正規に刻まれたもの。制度の違いを知っておくと、刻印の景色がずいぶん読み解きやすくなります。
日本の造幣局検定記号
日本では、独立行政法人造幣局が貴金属製品の品位試験を行い、合格した製品に「ホールマーク 検定記号」を刻印します。日の丸を思わせる円のなかに純度の数字が配されたデザインが特徴で、国が関与する公的な検定の証しです。
なお、日本の造幣局検定は任意制度です。刻印がないからといって直ちに偽物というわけではなく、検定を受けた製品にのみ造幣局の記号が刻まれます。
イギリスのアッセイオフィス(長い歴史を持つ検定制度)
ホールマーク制度の源流をたどると、14世紀のイギリスにたどり着きます。ロンドンのアッセイオフィス(検定所)は、世界でもっとも古いホールマーク制度を今なお運用し続けている機関のひとつ。都市ごとに異なる記号が定められていて、ロンドンのヒョウ頭、エディンバラの城、バーミンガムのいかり——それぞれがその地で検定されたことを示します。
刻印の一つひとつが歴史の積層であり、ジュエリーの裏側に都市の紋章が並ぶ光景は、見慣れるとちょっとした読書のような楽しみがあります。
フランスの鷲の頭マーク/スイスのセントバーナード犬頭
フランスでは、18金の金製品に「鷲の頭(tête d'aigle)」、プラチナ製品に「犬の頭(tête de chien)」の刻印が打たれる伝統があります。小さな枠のなかに鷲や犬の横顔が浮かぶ、古典的で格調高いマーク。フランスのメゾンが手がけるジュエリーに、これらのマークが添えられていることは少なくありません。
スイスでは、歴史的に貴金属製品の品質を保証するためのホールマーク制度が発展してきました。現在は「セントバーナード犬の頭」をモチーフにした公的な検定刻印が広く知られており、スイス製の貴金属製品に添えられる品質保証の証として用いられています。
小さな枠の中に刻まれたセントバーナード犬の頭は、スイスならではのホールマーク文化を象徴する存在です。国や地域ごとに異なる意匠が採用されているのもヨーロッパのホールマーク制度の特徴であり、その小さな刻印には長い歴史と信頼の積み重ねが込められています。
国により義務/任意が異なる点
重要なのは、ホールマークを刻むことが「義務」か「任意」かは国ごとに違う、という点です。イギリスやフランスのように義務化されている国もあれば、日本のように任意の国もあります。
ですから、「刻印の数が国によって違う」「海外のものには見慣れない記号がある」ということ自体は、偽物の兆候ではありません。むしろ、その国の制度に則して正しく刻まれているかどうかが、見るべきポイントになります。
素材別・ジュエリー刻印の読み方

ここでは、代表的な素材ごとに「ジュエリー 刻印 意味」を整理しておきます。手元の作品の内側を確認するときの、小さな手引きとしてお使いください。
K18 / 750 刻印
K18 刻印は、24分の18が金であること——すなわち純度75.0%の金を意味します。「750」はそれを千分率で表したもので、K18と750は同じ純度を指します。ブランドや国によって、K18と表記するか、750と表記するかが分かれます。
18金 刻印は、ジュエリーにおける金の黄金比のようなもの。純度が高すぎると柔らかすぎて日常使いに向かず、低すぎると光の深みが出ない。18金はそのバランスの上に立っています。
K18YG / WG / PG の違いと表記
同じK18でも、混ぜ合わせる金属によって色合いが変わります。
- K18YG(イエローゴールド): 銀や銅を配合した、もっとも古典的な金色。
- K18WG(ホワイトゴールド): パラジウムなどを配合した白色系の金。仕上げにロジウムメッキが施されることが一般的。
- K18PG(ピンクゴールド): 銅の配合比を高めた、やわらかな桜色。ローズゴールド(RG)と表記されることもあります。
刻印では「K18」単独の場合と、「K18YG」「750PG」のように色まで明記される場合があります。ブランドによって表記ルールが違うため、YG/WG/PGの表記がないからといって不安になる必要はありません。
Pt950 / Pt900 刻印
プラチナ 刻印でよく見かけるのは、「Pt950」と「Pt900」です。
- Pt950: プラチナの含有率が95.0%。ブライダルリングや高級ジュエリーでも多く見られる表記。
- Pt900: プラチナの含有率が90.0%。強度を重視した実用的な配合。
Pt950 刻印は、純度の高さゆえにプラチナ本来の重みのある白光を引き出しやすい一方で、やや柔らかい。どちらが上でどちらが下、という話ではなく、作品の設計思想に合わせて選ばれています。
シルバー(SV925 / Sterling)
銀製品の場合は「SV925」または「925」「Sterling」といった刻印が用いられます。銀の含有率92.5%、すなわちスターリングシルバーを意味します。
素材刻印の比較表
| 素材 | 代表的な刻印 | 純度 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 18金 | K18 / 750 | 75.0% | ジュエリーで広く用いられる金素材。YG・WG・PGなど色味の違いがある。 |
| プラチナ | Pt950 / 950 | 95.0% | ブライダルリングや高級ジュエリーで多く見られる純度。 |
| プラチナ | Pt900 / 900 | 90.0% | 日本のジュエリーでも見られる実用性の高い配合。 |
| スターリングシルバー | SV925 / 925 / Sterling / SILVER925 | 92.5% | 銀製ジュエリーで広く用いられる標準的な純度。 |
ホールマーク vs 傷・打痕の見分け方

ここからが、この記事のいちばんお伝えしたい部分です。
「届いたジュエリーの内側に、小さな凹みや印がある」
その正体がホールマークなのか、それとも本当に傷なのか。落ち着いて見分けるためのポイントをまとめます。
規則的な輪郭があるか
ホールマークの最大の特徴は、輪郭が幾何学的に整っていることです。円、楕円、ひし形、盾形——刻印を打つために彫られた型(パンチ)が、必ず一定の形を持っています。
対して、ぶつけた傷や打痕には、きれいな幾何学的輪郭は生まれません。線がかすれていたり、縁がぎざぎざしていたり、形が流れていたり。まず「縁の線」が整っているかどうかを見てください。ここがいちばんわかりやすい分岐点になります。
位置が定型か
ホールマークは、作品ごとに「打たれる場所」がほぼ決まっています。リングであれば内側の一定の位置、ネックレスやブレスレットであればクラスプ(留め具)の裏、ペンダントであればバチカン(チェーンを通す輪)の根元など。
傷や打痕は、ぶつけた場所にランダムに発生します。「なぜこんな場所に」と違和感を覚える位置の小さな印は、逆に言えばホールマークらしくない、という判断材料になります。
深さが均一か
ホールマークは、専用の刻印機やパンチで一定の圧力をかけて打たれるため、彫りの深さが比較的均一です。文字や記号のすべてが、同じくらいの深さで、同じくらいのシャープさで刻まれます。
傷や打痕は、そうはいきません。中央が深く端が浅い、あるいは片側だけが深い、線ごとに深さがばらつく——こうした不均一さは、傷や打痕である可能性を示します。
ルーペで見るとよく分かる(10倍推奨)
肉眼で判断に迷うときは、10倍のルーペで覗いてみるのが確実です。宝飾業界で一般的に使われるのが10倍ルーペ。拡大しすぎると視野が狭くなって全体像を見失うため、10倍が読み解きやすい倍率とされています。
ルーペで覗くと、ホールマークは輪郭線がくっきりと立ち上がり、内部の文字や記号が判読できます。傷や打痕は、拡大すればするほど輪郭のラフさが際立ち、文字には読めません。この違いは、ルーペを一度使っていただければ、納得いただけるはずです。
ちなみに、ルーペを持っていなくても、スマートフォンのカメラの接写モードやマクロレンズ機能で代用できることが多いです。撮影して画面で拡大すると、肉眼ではわからなかった輪郭が見えてきます。
主要ブランドの刻印位置と特徴
ハラダでお取り扱いしている主要メゾンについて、ホールマークの傾向を簡単にご紹介します。ただし、ブランドごとに仕様は時期によって変化することがありますので、あくまで目安としてお読みください。
ブシュロン

ブシュロンのジュエリーには、作品や年代によって、ブランド刻印、品位刻印、シリアルナンバーなどがリング内側やクラスプ周辺に刻まれることがあります。
特にキャトル コレクションは、四つの異なるリングを重ねたような立体的な造形が特徴で、その構造ゆえに「刻印が目立って見える」「輪郭が主張してくる」と感じられる方が多いコレクションです。刻印そのものはメゾンの厳格な基準のもとで刻まれており、輪郭や配置に個体ごとの微細な違いが見られることもあります。これは傷ではなく、ジュエリーとしての正しい姿です。
ショパール

ショパールは、スイスを代表するメゾン。スイス国内で製作された作品には、金製品には「ヘルベティア女性頭像」、プラチナ製品には「セントバーナード犬の頭」の刻印が加わる場合があります。ハッピーダイヤモンドをはじめとする可動構造を持つ作品では、構造上の都合から刻印の位置が独特になることもあります。
ダミアーニ

イタリアのダミアーニには、イタリア国内の生産者登録制度に基づく検定刻印が併記されることが特徴です。数字+アルファベット+県記号という定型のパターンを持ち、イタリア国内でつくられたことを示す公的な情報が、ブランドマークと並んで刻まれています。
モーブッサン

フランスのモーブッサンは、フランスのホールマーク制度に基づく刻印が、作品によって添えられています。ブランドマークや品位刻印とともに、ひと揃いの小さな記号群として、パヴェの裏側やリング内側に潜んでいることがあります。
むしろ"刻印がない"方を気にかけたい理由
ここまで読んでくださった方なら、もうお気づきかもしれません。ホールマークが「ある」ことは、本物である根拠のひとつです。では、逆はどうでしょう。
正規ルートで作られたブランドジュエリーに、品位刻印やメゾンマークがまったくない、というのは考えにくい状態です。もちろん、極端に小さな作品やアンティーク、国の制度変更前のものなど、刻印が省略されるケースはあります。けれど、現行の主要メゾンの作品で、ブランド刻印や品位刻印などがまったく確認できない場合は、購入店や正規取扱店に相談して確認することをおすすめします。
「ホールマーク 偽物 見分け方」という検索をされる方に、いちばんにお伝えしたいのはこの点です。
刻印の「有無」「位置」「輪郭」を丁寧に確認する—— それだけで、ブランドジュエリー 本物 見分け方の入口は、ずいぶん見通しがよくなります。
逆に、ホールマークがはっきりと規則的に刻まれているのに「これは傷かも」と気になってしまうのは、少し惜しいこと。ルーペで一度覗いてみれば、その印がどれほど丁寧に打たれたものかを、目で確かめていただけるはずです。
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届いた作品の刻印について気になることがあれば、いつでもお問い合わせください。どのブランドの、どの位置の、どんな刻印なのかを一緒に確認しながら、安心してお使いいただけるようご案内します。
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小さな刻印は、ジュエリーの確かな証

ジュエリーの内側や留め具に刻まれた小さな印は、傷や打痕ではなく、素材やブランドを示す大切な刻印であることが少なくありません。
ホールマークや品位刻印は、普段は目立たない場所にそっと刻まれています。それは、ジュエリー本来の美しさを損なわずに、作品の背景や品質を伝えるための静かな証でもあります。
もし届いたジュエリーに小さな凹みや印を見つけた場合は、まず輪郭や位置、深さを落ち着いて確認してみてください。規則的な形をしていたり、リングの内側や留め具の裏など定型の位置に刻まれていたりする場合は、ホールマークである可能性があります。
それでも判断に迷う場合は、無理にご自身で結論を出さず、正規取扱店へご相談いただくのが安心です。小さな刻印に込められた意味を知ることで、そのジュエリーをより深く、長く愛していただけるのではないでしょうか。